Tan-Tan

パートナーを自死で亡くしたグリーフサバイバー(自死遺族)の毎日を淡々と綴っています サイト→『andante』https://andante069.amebaownd.com/

読んだ

真鶴 (文春文庫)

真鶴 (文春文庫)

12年前に失踪した夫の日記帳の、最後のページに書かれた「真鶴」。その言葉にひかれるように、東京と真鶴を行き来するひとりの女性の物語。短いセンテンスとは対照的に、非常にねっとりとした、重々しい文章だと思った。設定として似ているのが、江國香織の『神様のボート』(夫が失踪、母娘が残される)。しかし、あちらが明るく、カラリとした母親だとするなら、『真鶴』は画用紙いっぱいに暗い色のクレヨンで塗りたくり、それを爪で引っ掻いて、その向こうに主人公がいる、というような暗さ。読み手にべったりと貼りついていて、なんとも重々しい。
小説は面白かった。でも、精神状態が良くないいま、読むもんじゃあないな、とも思った。それと、川上さんには以前のような明るくさばさばとした主人公をもう一度書いてほしいな、と思った。もともと明るくさばさばした文章じゃない(と思っている)から、じっとりとした重々しい主人公を描かれると、読み手の体力は(もしかしたら精神力も)、がっさりと奪われることだろうと思う。現に、わたしがそうである。